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名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)3697号 判決 1998年5月15日

原告

中本正教

ほか一名

被告

丹羽亨

主文

一  被告は、原告両名に対し、金一四〇六万二三五四円及びこれに対する平成七年六月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告両名のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告両名の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告両名に対し、金六八二七万八九九八万円及びこれに対する平成七年六月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、訴外中本仁志(以下「仁志」という。)と被告との間の交通事故について、仁志の相続人である原告両名が、被告に対して、民法七〇九条又は自動車損害賠償保障法三条に基づいて、それぞれ損害の賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

平成七年六月二日午後一〇時一五分ころ、愛知県西春日井郡春日町大字下之郷字新田三九番地の一先の信号機により交通整理の行われている交差点において、対面する信号機の赤色の表示に従って二台の先行車に続いて停止していた仁志運転の普通乗用自動車(以下「仁志車」という。)に、被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が追突し、仁志車はその前に停車していた車両に玉突き追突した。

2  被告の責任

被告は、被告車を自己のために運行の用に供していた。また、被告は、本件事故現場交差点の対面する信号機が赤色を表示していたのであるから、前方を注視し、前方に信号待ちで停止している車両がある場合には、同車に衝突しないよう同車に続いて停止すべき注意義務があるのに、これを怠りわき見して漫然と被告車を運転し、本件事故を発生させた。

3  仁志の受傷と受けた治療、死亡と原告両名による相続

仁志は、本件事故により脳挫傷・頭蓋内出血の負傷を負い、愛知県厚生農業協同組合会尾西病院に緊急入院をし治療を受けたが、平成七年六月五日、右傷害のため死亡した(当時二二歳)。原告正教は仁志の父であり、原告花子は仁志の母である。

4  既払金

原告両名は、自動車損害賠償責任保険から、三〇四五万九四二六円の支払いを受けた。また、原告両名は、被告から、一五〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  損害額

2  損益相殺

(被告の主張)

被告は、争いのない既払金のほか、仁志の葬儀のときに香典を含め五〇万円を支払っているので、このうち社会通念上の香典相当額を超える部分は、既払金として損害の填補とすべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  治療費

仁志の治療のために四三万二七一〇円を要した事実については、当事者間に争いがない。

2  付添看護料

原告両名は、両親による付添看護料として、合計三万円(一日あたり一万円の三日分)を請求するが、仁志について・付添看護が必要であったと認めるに足る証拠はない。

3  入院雑費

原告両名は合計四五〇〇円(一日あたり一五〇〇円の三日分)を請求するが、入院雑費は一日あたり一三〇〇円が相当であるから、三日分合計三九〇〇円が相当な損害である。

4  文書料

原告両名は合計六七九〇円を請求するが、証拠(甲三号証の一から三まで)及び弁論の全趣旨により、これを認めることができる。

5  休業損害

原告両名は仁志の平成七年三月分から五月分からの給料合計五一万四四四四円に基づき三日分の一万七一四八円を請求するが、証拠(乙一号証)及び弁論の全趣旨により、これを認めることができる。

6  入院慰謝料

原告両名は、一万六四〇〇円を請求するが、弁論の全趣旨により、これを相当として認めることができる。

7  葬儀費

原告両名は一五〇万円を請求する。なるほど証拠(甲四号証の一、二、同号証の三の一、二、同号証の四から九まで、五号証の一から四まで、六号証の一、二、七号証の一から三まで、八号証の一から七まで、九号証の一から三〇まで、一〇号証の一から一八まで、一一号証の一四まで、原告中本花子本人)によれば原告両名が仁志の葬儀に際し右金額を超える出捐をした事実は認められるが、仁志の年齢、社会的地位、原告両名が仁志のために新たに仏壇を購入していることなどを考慮すると、一二〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害である。

8  逸失利益

原告両名は、別紙計算表記載のとおり、平成七年度賃金センサスによる全労働者平均給与額五五九万九八〇〇円(二二歳については半額の二七九万九九〇〇円)を基礎収入とし、就労可能年数の六七歳までの四五年間について各新ホフマン係数を乗じ、生活費控除割合を三四歳までの一二年間は五割、それ以降の三三年間は四割として算出した合計七二二三万〇八七六円を請求する。

しかしながら、証拠(甲一号証、乙三号証、原告中本花子本人)によれば、仁志は本件事故当時株式会社ワールド観光に勤務をして年間二〇五万二八四六円の収入を得ていた独身の男子である事実が認められるから、仁志の逸失利益を算出するにあたっては同人が現実に得ていた右収入を基礎として、逸失期間を平均就労可能年数である六七歳までの四五年間(新ホフマン係数二三・二三一)、生活費控除割合は五割として算出するのが相当である。これにより仁志の逸失利益の本件事故当時の現価を算出すると、二三八四万四八三二円となる。

9  死亡慰謝料

原告らは死亡慰謝料として二四〇〇万円を請求するが、本件事故の態様、仁志の年齢、生活状況など本件に関する一切本件に現れた一切の事情を考慮すると、仁志の死亡についての慰謝料の額としては二〇〇〇万円が相当である。

10  よって、仁志の本件事故による損害は、合計四五五二万一七八〇円である。

二  争点2について

証拠(原告中本花子本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告が原告両名に対して仁志の葬儀の際に香典などとして五〇万円を支払った事実が認められる。

香典についても、葬儀費用あるいは精神的損害に対する慰謝料の性質を有するものであるから、全額損益相殺の対象にするのが妥当である。

したがって、争いのない既払金三一九五万九四二六円との合計三二四五万九四二六円について損益相殺すべきである。

三  結論

以上によれば、被告が賠償すべき仁志の損害は、合計一三〇六万二三五四円である。

原告両名は本件訴訟の弁護費用として合計金二〇〇万円を請求するが、合計一〇〇万円が相当である。

(裁判官 榊原信次)

計算表

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